2023年3月23日(木)に開催された第35回ハイメスコンクール<ピアノ部門>について、審査委員長 植田克己先生による全体講評を掲載させていただきます。
審査委員長による全体講評
今回のコンクールでは9人の演奏を聴きましたが、それぞれが大曲、難曲に取り組み、緊張の中でも力量を発揮されていたと思います。最近では若い世代の技術の向上が目覚ましく、今回の応募者も多くがそれを裏付けるものでした。鍵盤上の操作の確実性が増してミスタッチが少なくなり、指回り、スピード感も以前に審査をした時よりも高まり、さらに専門的な勉強を継続したいという皆さんの強い熱意も相俟って、評価の差を求めにくいと感じました。
このステージを目指して取り上げた曲は、自分たちが取り分け惹かれたり、丁度この時期に良い取り組みができていたり、さらに20分という制限時間に上手く収まり、加えて演奏効果の高さや自分の主張を発揮し易いなど、様々な観点を考えて選択したのでしょう。
自身の発信と共に、作品から放たれている内容や精神をもっと吟味すると、皆さんの表現がさらに輝きが増すだろうと思いました。調性の違いや和声の変化を特徴づける姿勢であったり、形式を辿ってもっと大きな舞台転換を示したりもできそうです。また舞曲では踊りを想像させる特徴あるリズム感を示してもらいたかったです。
両手のバランスを考える時に右手ばかり聴いていませんか? メロディーが左手に現れる時ばかりでなく、まるでオーケストラの中低音楽器を浮き立たせるくらいの扱いも大事です。ロマン派以降のピアノ作品はオーケストラの楽器群よりも音域が広い曲も多いので、高音域、中音域、低音域によるそれぞれの響きの特徴をもっとはっきりと示しても良いかもしれません。さらに片手ずつの和音の中で響きの特徴を示す、またオクターブの連続する箇所では腕一本という弾き方でなく二声、両手であれば四声を聴き分ける余裕も聴きたいところです。
いくつにも分けられる強弱記号からは明暗、遠近感、色彩感、音質すら読み取れそうです。休符も単に息継ぎをして次のフレーズの準備をするばかりでなく、空間そのもの、振り返る時間、さらには劇的な変化を促す箇所も少なくないでしょう。
加えてペダルの扱いにもっと留意して響きの美しさと繊細さ、そして華やかな雰囲気をより表現してほしいとも思いました。
当日の楽器は多くの方が初めて触れる楽器だったと想像しますが、そういう状況でも充分に表現するには、普段から様々なことを想定して練習を積み重ねることが大事なのは言うまでもありません。それは単調な繰り返し練習を打破する最良の方法でもあります。
皆様の、そしてこれから続く方々の更なる精進をお祈りいたします。
第35回ハイメスコンクール<ピアノ部門>
審査委員長 植田克己