【留学インタビュー】岸本隆之介さん(第32回ハイメスコンクール<ピアノ部門>第1位)

第32回ハイメスコンクール<ピアノ部門>にて最優秀賞を受賞された岸本隆之介さんは、札幌の高校を卒業してすぐに、2021 年秋からオーストリア・ウィーン国立音楽大学へ留学しました。この度、2025 年 3 月 12 日(水)に Kitara 小ホールにてリサイタルを行うため一時帰国された機会に、現在のウィーンでの留学生活や、リサイタルについてインタビューを行いました。

インタビュー実施 2025年2月7日(金)
インタビュアー 広報委員会 委員長 駒ヶ嶺ゆかり
撮影・記録 広報委員会 副委員長 立花雅和、事務局(立花)

〇2021年にウィーンへ留学してから3年が経ちますが、今の留学生活についてお聞かせください。

今年の3月から学士課程の学期が始まり、卒業試験や卒業論文が控えています。ドイツ語や英語で対処しなくてはならないので、今はそれに向けて身構えているところです。

言語に関しては、留学した最初の頃はドイツ語の試験があり、まず言語の勉強をしていました。
また、オーストリアに幼い頃から住んでいる日本人のヴァイオリニストと出会って、一緒に四重奏をやる機会ができてから、オーストリア人との会話の機会も増えて勉強になりました。オーストリアはもともと訛りがあるのですが、今習っているヤン・イラチェク先生がドイツのハノーファー出身の標準ドイツ語のため、そのおかげもあり正しいドイツ語が身についたと思います。
オーストリアのドイツ語圏のピアノ教授たちは、もちろん英語も話せますが、ドイツ語でレッスンすると、よりレッスンが生き生きすると感じています。

日常生活に関しては、日本食の定食屋でアルバイトをしながら一人暮らしで生活しています。ピアノはレンタルで、月〜土曜は朝8時から夜10時まで、日曜は朝のミサの時間と被らないように朝10時から夜10時まで弾けるマンションで生活しているので練習環境は整っています。

ウィーン国立音大、正門前にて
レッスン室にてイラチェク先生と

〇大学内での勉強についてはいかがでしょうか?

音楽史の授業があり、器楽の歴史というよりは歌曲とオペラの歴史を中心に学びました。歌唱法が発掘された古い時代のことを学びましたが、ピアノは音楽の歴史の中では新しい歴史の方に入るので、その周りの歴史を学ぶことによって、どのようにピアノが生まれたのか理解に繋がり、ルーツを知るという意味では興味深い授業でした。
歌曲伴奏や室内楽なども学んでいます。

(写真:室内楽のクラス発表会にて、モーツァルトのピアノ四重奏の演奏)

〇日本や他の国と比べてウィーンの特徴はどのような点でしょうか。

他の国、例えばドイツと比べたときに、ワルツや舞踏会が伝統としてオーストリアの方が色濃く残っています。ウィーンは規則や論理に加えて、踊りやオーケストラのイメージをプラスして表現するような音楽性が素敵だと感じています。とても音が柔らかいのもオーストリアの特徴なのかなと思っています。

また、演奏会に関して一つ大きな違いだと、ヨーロッパは演奏会のフライヤーをしっかり作ることが少なく、その分演奏会をラフに行うことができる印象です。
音楽学校の図書館で演奏させていただいたこともあるのですが、Kitaraのような最新の技術が詰まったホールとは違い、アットホームな演奏会となりました。
日本でも、しっかりとした音楽だけどウィーン的な温かい雰囲気の演奏会を持ち込んでいけたらと考えています。

(写真:ウィーン旧市庁舎、Bank Austria Salonでのリサイタルに出演)

〇今回の演奏会を開催しようと思ったきっかけはなんですか?

私の先輩が通っていた札幌コンセルヴァトワールの先輩方が、このKitaraアーティストサポートプログラムを利用してコンサートを開催していました。
札幌で一番綺麗な響きのホールだと感じているKitaraでいつかリサイタルをしてみたいと前々から思っており、経済的にサポートしていただけるシステムを活用しぜひ挑戦してみたいと思いました。

(演奏会情報の詳細・プロモーション動画はこちらからご確認いただけます。)

〇演奏会のテーマ、~愛から生まれた名曲たち~ や選曲について教えてください。

メインプログラムであるシューマンのクライスレリアーナは、私が一番好きな曲です。内容的にも非常に難しい曲で、ウィーンでよく先生に見ていただいたとても思い入れがある曲です。
この曲はロベルト・シューマンが後の妻であるクララ・シューマンに捧げた曲で、この曲を軸にプログラミングを考えたとき、作曲家の恋をテーマにしようと思いました。

後半はクライスレリアーナ(約30分)を中心とした曲目ですが、前半は4人の作曲家の恋に関するエピソードを曲間に交えながら演奏し、短い小品を少しずつ楽しんでもらえるよう構成しています。
特に注目していただきたいのは、シューマンとブラームスの曲です。
シューマン=リストの「献呈」は、シューマンがクララとの結婚式に宛てて書かれたという曲です。シューマンとブラームスとクララ・シューマン、この3人の恋愛関係は歴史に残るものとなっています。
具体的には、シューマンもブラームスも音符を暗号のように使い、クララの名前を曲に忍ばせています。シューマンは直接的に愛をさけぶような曲が多いのですが、ブラームスは日本人的で奥ゆかしいところがあって、あえて言葉にせず少し隠したような控えめにするという形で、今回演奏する間奏曲にも用いられています。3人の音楽家はお互いにリスペクトしていたことで友情や愛を超えた深いつながりがあったのではないかと思います。

〇3月12日のリサイタルに向けて、意気込みを教えてください。

普段私が演奏する際に大切にしていることである、叙情性や自然な音楽を学ぶにはウィーンは最適な場所だと感じていますので、これまで学んだことをしっかり演奏に生かし、作為的に工夫して曲を作るというよりは、それを超えた自然な音楽を奏でたいと思っています。作曲家が名曲に込めた愛おしさ、嬉しさ、楽しさ、悲しみ、苦しみなどが、演奏から皆様に伝えられたら嬉しいです。

また、有名な曲を連続して弾くという機会がこれまで意外となかったので新鮮さも感じています。

(写真:クリーブランド国際コンクール予選にて、
フランス、エコールノルマル音楽院のサル・コルトーでの演奏後の様子)

〇今後の留学生活はどのように考えていますか?

幼い頃から師事していた宮澤先生と棚瀬先生は音楽の根底にあるパッションと個性をすごく大切にされていて、自分もそうありたいと思っています。

現在のイラチェク先生は論理が70%・自分の主張は30%で音楽を作り始めるので、今までと違う視点での発見も多く、ただやみくもに練習するのではなく、計画的に自分の理想の音楽に近づけていくということを教えていただきました。

この秋に学士が終わった後、修士に行くことも検討しています。この素晴らしい環境でさらに研鑽を積み、より良い音楽を目指していきたいと思っています。

〇これから留学を考えている学生さんへメッセージをお願いします。

私は2021年のコロナ禍での留学だったので大変な面もありました。当時レッスンすら実施できない国もあったと聞きましたが、ウィーンはレッスンだけはきちんとできたので、他の授業はオンラインでも行く価値がありました。

また、現地の先生は門下に入るとしっかり面倒を見ていただけるのですが、入学前は未契約のような形なので、メールが遅くて困ったこともありました。大丈夫なのか心配になりましたが、実際行ってみると本当に素晴らしい先生ばかりでした。

いろいろな面で不安を抱えていると思いますが、意外となんとかなりますので、自分の演奏を信じて飛び込んでみたらいいのではないでしょうか。


岸本 隆之介 (ピアノ)

 2016年全日本学生音楽コンクール中学校の部第1位及び野村賞、井口愛子賞、福田靖子賞、かんぽ生命奨励賞。高校の部第2位及び横浜市民賞(聴衆賞)(2018年)。2017年第42回ピティナ・ピアノコンペティションF級銀賞及び聖徳大学川並弘昭賞。2018年若い音楽家のためのクリーブランド国際ピアノコンクール(米)セミファイナリスト。2020年ヒルトンヘッド国際ピアノコンクール(米)ファイナリスト。第44回ピティナ・ピアノコンペティション特級セミファイナリスト。2021年ハイメスコンクール第1位。2022年ジョージエネスク国際ピアノコンクール(ルーマニア)セミファイナリスト。2024年クリーブランド国際ピアノコンクール出場。

 5歳より札幌コンセルヴァトワールにてピアノを学ぶ。2021年北嶺高等学校を卒業後ウィーン国立音楽大学(オーストリア)コンサートピアノ科入学。現在学士課程在学中。宮澤功行氏、棚瀬美鶴恵氏、ヤン・イラチェク・フォン・アルニム氏に師事。

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