【留学レポート】西本夏生さん(ピアノ・スペイン留学)

ピアノ 西本夏生(スペイン留学・2015年10月帰国)

インタビュアー:広報委員会 駒ヶ嶺ゆかり 

記録・撮影:広報委員会 立花雅和

2017年1月、ピアニストの西本夏生さんに、ご自身がスペイン留学で経験されたことについてお話しを伺いました。

西本夏生さん(ピアノ)プロフィール
富良野市出身。早稲田大学、東京芸術大学大学院を経てスペインにてESMUC(カタルーニャ高等音楽院)、カステジョン高等音楽院の両修士課程にて学ぶ。San Giovanni Teattino国際ピアノコンクール第1位を初めとして、数多くの国際コンクールにて上位入賞。国内外のオーケストラと多数共演を重ねる。2016年にスペイン大使館にて開催されたコンサートは満員の聴衆に迎えられ「コンサートは大成功(スペイン大使館)」を収めた。NHK札幌「ほっとニュース」でも帰国直後に特集が組まれ話題を呼んだ。宮澤功行、木内泰子、迫昭嘉、Pierre Reach、Leonel Morales各氏らに師事。ハイメスアーティスト会員。

日本ではまず早稲田大学へ入学され、人間科学部で心理学を学ばれました。人間というものをいろいろな角度から見てみたい、人間全般に興味があったというお気持ちがあったそうです。そして卒業後は、東京芸術大学大学院音楽教育科(ピアノ専攻)にて3年間学び修士課程を修了されました。その経緯があって、より一層「演奏する事」そのことに興味を抱き、単身スペインを目指すこととなられました。つまりここから、ピアノ演奏をする事にむかって突き進む事となられたそうです。

1.スペインを留学先として選んだ経緯

 子どものときにある日先生が与えてくれた曲は「いつもと何か違うけど、すごく好きだ!」と感じ、大興奮して弾いたそれらの曲が、グラナドスの曲でした。その後も、いくつかスペインの曲を弾くものの、それがスペイン人作曲家の曲だという知識は実はなく、大きくなってはじめて、ある日今まで自分が心底好きだと思って弾いていた曲は全部スペイン人作曲家の作品だったということに突然気づき、その日から私にとってスペインの音楽が特別なものになりました。ヨーロッパで勉強しようと思ったときも、フランスやドイツなど色々な国を考えましたが、最終的には「ずっと好きだと心から思っていた曲が生まれた国に行こう!」とスペインにいくことを決めました。

スペインの印象はどうでしたか?

 実際に行くまでなんの予備知識もなく、スペインっていうのはずっと暑くて、行ったら道は全て砂でできていて、そこら中で火柱が立っているにちがいない・・・と勝手に妄想していましたが、実際に行ったバルセロナはとても近代的な都市でした。初めてバルセロナに行ったとき、パリに友人を訪ねて数日間すごした後に向かったので、パリよりもずっとメトロが綺麗で、街並みが眩しいほど鮮やかで、日差しが強く、お店で出る飲み物には氷が入ってきて(笑・パリではなかったのです)やっぱりここは私が大好きな国にちがいない!と最初からとても良い印象でした。

 スペインに拠点を置いてからは、滞在していた5年の間にできるだけ多くのコンクールに挑戦されたそうです。その中で出逢った審査員の先生、そして一緒に学ぶ仲間達がスペインでの音楽生活の大切な基盤となっていったそうです。スペインに行って強く感じたのは「文化や言葉、生活の雰囲気などのすべてがスペイン人作曲家の音楽に活かされているということを実感」したことでした。

スペインの音楽、留学事情について教えてください

 実際にスペインに留学することを心に決めたとき、まずは先生を探そうと思ったのですが、他の国と全然違って、ほとんど情報がないのです。そこで、友達を頼って、友達の知り合いなどでスペインに行ったことがある方に数名お話を聞くことができましたが、長期に渡って留学した方にはそのときには巡り会えず、情報を集めることには本当に困難を極めました。あまりにも情報がなさすぎて、日本でスペインという名のついている音楽的なイベントにはとにかく顔を出してみよう、知らない人でもメールを出してみよう、と必死になり、そうこうしているうちに、日本で開催されたあるコンクールでその後師事することになる先生に出会うことができました。
スペインに行って慣れた頃には、私のように、スペインに来たくても困っている人がいるかもしれないと思い、ブログに自分のやったことを色々と書きました。そうすると、毎年必ず誰かから連絡がくるようになり、そうしてスペインに実際にきた学生さんも数人います。
 学校は、ラテンアメリカからの留学生がとても多く、アジアからの留学生は学校全体でも、片手で数えるほどしかいません。私はバルセロナのカタルーニャ高等音楽院とバレンシア地方のカステジョン高等音楽院の二つの学校で学びましたが、特に地方都市であるカステジョンの学校では、私は唯一のアジア人でした。また、2012年まで修士課程が存在しなかったのですが、運良く私がいる間に修士課程ができ、カタルーニャ高等音楽院も、カステジョン高等音楽院も、第1期生として修士課程で学びました。
 カタルーニャ高等音楽院では、伝統音楽やフラメンコの学部もあったので、レッスンのときに上のフロアからフラメンコの強い足音が聞こえてきてレッスンにならなかったり、練習室の横でカタルーニャの民族音楽であるサルダナ特有の音の大きい楽器が練習していて、うるさすぎて自分の音に集中できなかったりと、いかにもスペイン!といったエピソードはいくつもあります。

一週間を有効に使って勉強しようと、それぞれに生活する場所を設け、平日はバレンシア地方のカステジョン高等音楽院、週末はバルセロナのカタルーニャ高等音楽院へと同時期に二つの学校に通って学ばれました。先生は音楽的には非常に厳しいけれど、門下生同士が大変仲良く、時に助け合い、お互いに真摯な意見を言い合うことで精神的にも鍛えられることがあったそうです。仲間と演奏家としてどう生きていくかなどを語り合う中で影響を受けることも多く、充実した日々を送られました。

2.日本とスペイン

<日本とスペイン>文化の差異について伺いました

スペイン人は、とても人懐こくて面倒見がよく、フレンドリーで泥臭い優しさのある人々ですが、その一方で個人主義もしっかりしていて、フレンドリーだけど同調圧力のない国だと思いました。 言いたいことははっきり言える、むしろ言わないとダメ、ちゃんとお互いに言い合って結論を出そうとする国です。よく街中でも(特にお祭りのときなど)喧嘩している男の人がいたりするのですが、ずっと見ていると最終的には肩を組んではっはっは!!と笑いながらそのままお酒を飲みに行っちゃうのですよね。生きることの楽しさや喜びを心から享受しようとする人々です。時間にはルーズ。でも、音楽家たちは結構定刻にはしっかりやってきます。

スペインで経験された印象的な出来事はありますか?

仲間たちと少し遠くまで行ってバーベキューをすることになったときのこと。私以外はみんなスペイン人で、一体どんな風に事が進んでいくかなと思ったら、一言で言えば、とにかく効率の悪い準備の仕方をするのです。みんなで同じスーパーに行って、道具を用意して…なぜみんなで手分けしてやらずに、わざわざみんなで動くのか??あまりにも時間がかかるし、私はすごく疑問に思い、もっと効率良くやる方法を提案したのです。そのとき彼らに言われた一言がすごく印象的でした。「夏生に言われた方法でやったら、確かにもっと早く準備できるけど、でも『みんなで』楽しめないじゃないか。みんなで一緒に、楽しく準備しようよ!」と言われたのです。私は目から鱗の思いでした。そうか、みんなはそういう風に考えているんだって思って、ここは1つ彼らのやり方に合わせてみようと思いました。こういう風に、自分では(日本では)思いつかないような行動パターンを体験することで、彼らの楽しく生きる秘訣のようなものをおすそ分けしてもらった気持ちでした。

3.北海道での今後の活動

3/8のルーテルコンサート出演への抱負をお聞かせください

こうしてスペインの音楽で、皆様と1つのコンサートを共有できることをとても楽しみにしています!3月のまだ寒い札幌で熱いスペイン音楽を響かせること、たくさんの方々にお会いできることを心待ちにしています。

ハイメスとの関わりの中で、ご自分の音楽体験を活かしていく上でのアイデアは何かありますか?

私は自分の出身地である北海道を心から誇りに思い、愛しています。スペインは、北海道とは一見イメージは離れていますけれど、人々の大らかさと開拓精神では共通しているものを感じたりもします。私のこれまでの音楽体験や、音楽を通じて出会った人たちを幅広くつなげていくことができたら、一人の人間としても、とても嬉しく思います。たくさんの楽しく元気がでてくる未来志向型の出来事に従事したいと考えています。

現在の活動拠点は東京。これまで特にクラシックのファンでなかった人達にもクラシック音楽が近い存在になって、好きになっていってもらうことが自身の活動理念としてあると語る西本さん。現在大学で保育を目指す学生に音楽を教える事も非常に楽しく感じているそうです。また、故郷である富良野でも毎年コンサートを企画したりと、定期的に北海道でも演奏していこうと考えていらっしゃるそうです。

西本夏生さん公式ホームページ Natsuki Nishimoto Offcial Page 

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